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2026/9/14

業界研究⑬農業の人手不足を考察します!【後編】~「オープンファクトブック#21」

みなさん、こんにちは。うるる執行役員CCO ブランド戦略担当役員の小林です。私たちは「労働力不足解決のリーディングカンパニー」として、日本が抱える深刻な社会問題である労働力不足問題と日々向き合っています。その活動の一環として、当問題の実態や私たちの生活への影響について多くの方に知ってほしいと願い、「オープンファクトブック」を実施しています。ここでは労働力不足にまつわる実態、課題、展望などを解説していきます。

業種ごとに労働力不足を考察する本シリーズ。今回は、「農業」を取り上げます。

前編では、日本の農業が抱える深刻な構造課題と、それを乗り越えるための新たな変化の兆しを見てきました。

前編の記事はこちら https://blog.uluru.biz/12461

後編では、「農業の人手不足」をテーマに、北海道十勝・芽室町で大規模農園を営む、髙橋農林 髙橋龍太氏へのインタビューをお届けします。


髙橋 龍太(たかはし りゅうた) 氏プロフィール

北海道芽室町出身。1900年から続く農家の6代目として、主に麦、豆、コーンの生産・販売を手掛ける。農業生産の合間には林業を営んでおり、保有する畑と山林の総面積は東京ドーム20個分を超える。

先々代が欧州から「機械化」を、先代が米国から「大規模農場運営」を学んできた歴史を背景に、現在は国や業種を問わず「外部の知」を積極的に取り入れたデータ経営や現場の業務改善を推進。他農場からの従業員研修や全国からの学生インターンを受け入れるほか、他社業務支援事業も展開しており、次世代の持続可能な農業経営モデルの構築に力を注いでいる。

――さっそくですが、髙橋さんは農業における労働力不足をどのように感じていますか?

農業界は法人化が進みつつあるとはいえ、依然として個人事業主による「家族経営」が主流です。そのため、第三者を雇う・マネジメントするといったノウハウが不足しており、結果として数名の家族だけで多様な業務を抱え込みがちです。加えて、自然相手の仕事のため、時期による労働量の振れ幅も大きいゆえに労働力不足に陥りやすい構造だと感じています。

外部の人手を雇う余力がない背景には、より深刻な「コスト問題」があります。天候による利益変動や他業界と比べた給与水準の低さに加え、近年は資材や機械の高騰が経営を直撃しています。特にオープンファクトブックでも触れられている「肥料や飼料の輸入依存」は深刻で、昨今の国際情勢の緊迫化にともなう価格高騰は、農業者にとって100万円単位での影響がありました。さらに今後、農地の集約と大規模化が進むなかでは、1,000万円以上かかるトラクターなどの大型機械への投資も必要となってきます。このように、人件費以外にも多額の固定費を割かなければならず、採用に費用を回せない構造が広がっています。

 

――髙橋さんご自身は、実際に労働力不足を感じていらっしゃいますか? 

髙橋農林も家族社員によるハードワークで何とか回している実態があり、慢性的なオーバーワークを感じています。現場での肉体労働はもちろんのこと、事務作業や知的労働も担っているため、人手の足りなさを感じる毎日です。背景には先述した理由のほか、昨今は離農者の農地を引き受けるスピードが速まっていることもあります。周りを見渡しても、現在は段階的な機械の投資がなんとか間に合っていますが、今後はそれが追いつかないレベルで農地が出てくることが予測されます。

 

――そのようななか、貴社が業界に先駆けて行われている取組を聞かせてください。

髙橋農林では、将来的な大規模化・組織化を見据え、効率的かつ安全な現場づくりを推進しています。特にトヨタ自動車の「5S」をはじめとする製造業のノウハウを参考に、現場の小さな改善を積み重ねてきました。その結果として、年間400〜500時間もの作業時間の削減(2026年8月時点)を実現しています。アプローチは、大きく以下の四つです。

 

1.道具の定位置化(整理整頓)

倉庫内の農機具の置き場所を明確にしました。以前は「倉庫から工具を取ってきて」と言われても、探す時間や聞き返すために農場を往復する手間が生じていましたが、定位置を決めたことで、日々の無駄な動きやコミュニケーションが激減しました。


2.作業時間の可視化

100円ショップを中心に購入した50個の時計をあらゆる現場や機械に設置し、各工程の作業時間を測定・数値化しました。これにより、従来は漫然と大量の農作業をこなしていた現場に適度な緊張感と継続した集中力が生まれました。

また、「4haの播種に40分」のように、時間が常に見えるようになったことで1ha単位の所要時間が割り出せるようにもなりました。その結果、最適な作業計画の立案が可能になり、農作業のムダやムリの削減につながりました。さらに「なぜ、このほ場だけ時間がかかるのか?」というズレを解明することで、トラクターのハンドルの切り方やギアチェンジ一つに及ぶ業務プロセスの改善に成功し、これだけで100時間を超す時間の削減に至っています。


3.徹底した安全管理とメンテナンス

過去に人がケガをした場所には「頭上注意」を、農機をぶつけた場所には「衝突注意」の看板を設置するなど、安全管理と保守点検を徹底しています。事故や機械トラブルによって発生するイレギュラー対応を未然に防ぐことで、作業時間のロスやケガによる時間や金銭面の喪失を大幅に減らすことができました。


 

――こうした現場改善の積み重ねが業界屈指の水準となり、現在では自社の生産性改善に留まらず、他農業法人の業務支援へとつながっているんですね。ここまで現場改善のお取組を伺ってきましたが、「デジタルの活用」という面はいかがでしょうか。

上記でご紹介した一連の改善活動における作業データはもちろん、先代の頭の中にあるノウハウや、紙で残る整備履歴や肥料などの購入履歴のデジタル化も並行して進めており、スマホからGoogleドライブ経由でいつでも閲覧できる環境を整えました。また、昨年度の冬には、20kgにも及ぶ膨大な紙資料のスキャニングとデータ化を完了しています。とはいえ、こうした情報を農作業中にスマホを操作しながら確認するのは難しいため、機械本体には注意点を「テプラ」で直接貼り、現場でパッと見て分かる「アナログな可視化」も併用しています。

 

 

――人材確保の面では、どのような工夫をされていますか?

多角的なネットワーク構築を進めることで、必要人材の適切な確保につなげています。その成果として、これまでに国内外から30名以上のインターン生を受け入れ、採用や育成のノウハウを仕組み化すると同時に、地域との関わりを持つ「関係人口」の創出につなげています(参加実績:青山学院大学、東京大学、北海道大学、早稲田大学、Macalester College等)。

さらには、従来の求人ルートでは出会えない層を「複業人材」や「プロボノ」として巻き込み、DX施策の推進など経営の課題解決に力を貸してもらっているほか、2026年に開始した「ワークステイ」では、農業に興味のある多様な層(高校生、親子、起業家など)を受け入れており、繁忙期における新たな労働力の確保と関係人口の創出を両立しています。

 

――髙橋さんが、労働力不足の防止や解決に向けたお取り組みとして注目されている事業者やサービスはありますか?

たとえば、農業版タイミーとも呼ばれる「daywork」は、JAが主導する農業特化型のスポットバイトアプリとして注目されており、近隣農家でも導入事例が聞こえています。

また、四季のある日本では、農作業を通年で均等に行うことが難しい地域が多く存在します。特に北海道のような雪国では、農閑期に比較的余裕がある一方、農繁期はオーバーワークになりがちです。年間で仕事量が50〜150%と大きく変動するため、この「農閑期の存在」が正社員を雇用する際の大きなハードルになっていました。その点、作物や地域によって繁忙期と閑散期が異なる構造を生かし、「冬場は北海道から九州へ渡って農場運営に携わる」「漁業の閑散期に農業を手伝う」といったように、地域間・一次産業間で人材をシェアし合う連携モデルに注目しています。こうした広域での人材融通の仕組みが今後さらに広がることを期待しています。

 

――農業の人手不足解決に向けて、国や業界はどのような取組を講じる必要があると考えていますか?

業界としては、現場改善や経営能力の向上に向けた具体的なアプローチや成功事例を愚直に発信し、農家の意識や行動の改革を後押ししていくことが重要と考えます。一方、国や行政に対しては、今後の農業者減少にともなう「農地の大規模化」に向けた支援の継続・強化に加え、農業界以外の広範な人々が農業や食の現場に関われる接点を創出していく政策を期待しています。

これからの時代、目の前の生産技術を高めることは当然として、経営に対する知識とアクションは不可欠です。しかし、農家の情報収集は個人のネットワークに依存しがちなので、影響力のある公的機関や業界団体に農業経営に関する実践的な情報を積極的に発信してもらいたいと願っています。生きた情報に触れる機会が増えれば、経営改革に挑む農家が全国で次々と生まれてくるのではないでしょうか。

 

――農業をはじめ一次産業でAI・DXが極限まで進んだ未来において、それでも「人間にしかできない領域」として残るのはどの部分だとお考えですか?

まず、AIの判断能力がさらに進化していくなか、「作物」「気候」「土壌」の最新状況を知覚すること、現場でアクションを実行する存在として、人間の存在は不可欠だと思います。そのうえで、センサーやロボットが人間の目や手を代替するほどの最先端技術が浸透した世界で最終的な競争優位性を左右するのは「土地」「ファイナンス(資金調達)」「組織マネジメント」の3点に集約されると考えています。自然環境のデータを解析し実行するプロセス自体はAIが得意としますが、「この人になら農地を託したい」と思ってもらえる相手との信頼関係の構築や、それを事業として成立させる資金調達や組織づくりといった「経営」の領域は、テクノロジーの手前にある人間にしかできない領域ではないでしょうか。

本来「百姓」とは、100に及ぶ多様な仕事をこなす存在を指しますが、これからの時代は、付加価値の高い仕事から低い仕事までを自分で抱え込むのではなく、「集中すべきコア業務」と「適切に外注・自動化すべき業務」を切り分けてマネジメントし、人間ならではの価値創造に時間とエネルギーを注ぐことが、農業経営者に求められる本質的なスキルになると感じています。

 

――農業の魅力ややりがいを聞かせてください。

「食」という、人が生きるうえで欠かせない営みを通じて、人々の暮らしを物質面・精神面の両方から豊かにできる点に、明確な意義と使命感を感じています。この産業に携わる以上「まずは食べる人を豊かにしたい」という強い想いがあります。同時に、子どもの頃から「農作業は本当に大変だ」とも感じていました。夏は暑く、冬は寒く、仕事もハードです。しかし現状、それに見合うほど社会的に、あるいは経済的に報われているかと言えば、決してそうではありません。だからこそ、「食べる人」だけでなく、「作る人」も豊かになれる世界を実現したいです。

 

――最後に、髙橋農林の描く農業の展望を聞かせてください。

農業者の減少を語るうえで同時に直視しなければならないのは、農業界の課題以上に「地方における急激な人口減少」という現実です。少子化は確実に進行しており、私の住む芽室町は年間出生数が30年前の約3分の1に、人口1万人を切る町村では10名に満たない時代が目前に迫っています。単に「農家が減る」だけでなく、「地域から人が消えていく」足音が確実に聞こえています

農業経営の面でも、従来の拡大手法には限界が見えています。日本の食糧基地である、ここ北海道十勝においても、父の代から私の代で地域農家数は約半減し、次世代ではさらに半減する可能性があります。これまでのように「機械を大型化して規模を広げる」だけのアプローチでは、もはや対応しきれません。

他方、家族経営で超大規模化を進めると、地域の労働人口が激減し、病院や教育といった生活・社会インフラが維持できなくなる課題が生じます。これはすでにアメリカやオーストラリアで起きている現象であり、日本も同じ未来に直面しかねません。

こうした構造的危機に対し、私は現在『十勝アグリ・オープンフィールド』という構想を掲げ、事業成長と関係人口の創出を両立できる仕組みづくりに取り組んでいます。完全な移住や正社員雇用はハードルが高い一方、単純な観光だけでは地域経済や労働力への恩恵に限度があります。だからこそ、「移住未満観光以上」の関わり方で、多様な人々が地域や農園に関われるモデルが必要です。実際、髙橋農林は家族数名で営農していますが、その周りには10倍以上の人々がそれぞれの形で関わってくれています。この世界観を突き詰め、「地域の消失という絶望」を「地域を超えた関係者の創出という希望」に変えていきたいです。


まとめ

農業の労働力不足には、当事者の努力だけでは解決できない複次的な要因が存在していることが明らかになりました。しかし、今回ご登場いただいた髙橋さんのお話からは、慣習を見直し、「外の知」を柔軟に取り入れた独自の工夫によって、改善できることの多さを知ることができます。課題解決を目指す髙橋さんのその姿からは、徹底した現場観察と地に足の着いた確かさ、「農業」を超えた学び、そして、大きなものに自らの哲学と理想を持って立ち向かっていく勇敢さを感じ取ることができました。

本質から遠い作業や属人化をスマートに削ぎ落とし、人が経営や価値創造に集中できる環境を整えること。これこそが農業を魅力的な産業へとアップデートし、次世代の担い手を引きつける確実な解決策の一つではないでしょうか。

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