みなさん、こんにちは。うるる執行役員CCO ブランド戦略担当役員の小林です。私たちは「労働力不足解決のリーディングカンパニー」として、日本が抱える深刻な社会問題である労働力不足問題と日々向き合っています。その活動の一環として、当問題の実態や私たちの生活への影響について多くの方に知ってほしいと願い、「オープンファクトブック」を実施しています。ここでは労働力不足にまつわる実態、課題、展望などを解説していきます。
業種ごとに労働力不足を考察する本シリーズ。今回は、「農業」を取り上げます。
農業も、林業・水産業と同様、高齢化や離職による担い手不足という逆風が吹いています。その一方で、既存の枠組みを塗り替えるような面白いイノベーションが続々と起きている領域でもあります。
本オープンファクトブックでは、日本の農業が直面している構造的な課題を紐解くと同時に、全国各地で生まれているさまざまな取組に着目しながら、人手不足解決につながるヒントを探ってみたいと思います。
高齢化と外部環境のリスクを抱える、日本の農業の現在地
農業の担い手不足が叫ばれて久しいですが、そこには少子高齢化や後継者問題だけでは語れない、複雑なリスクが潜んでいます。ここでは、いま現場で起こっていることと、その背後にある構造的課題を考えてみたいと思います。
・土地はあっても耕す人がいない
令和8(2026)年現在、日本の基幹的農業従事者は98.7万人、平均年齢は、67.7歳です。平均年齢は令和2(2020)年と比べて横ばいですが、従事者はわずか6年で3割以上も減少しています。(※1)
高齢化と担い手の激減にともない、離農する同業者からの農地集約が進んだ結果、1農業経営体当たりの経営面積は拡大を続けていますが、引き受け手のつかない耕作放棄地も発生し続けており、その広さは25.7万ヘクタールにも及びます。これは、東京都や神奈川県の面積に匹敵するほどです。耕作放棄地の再生利用が進んでいるものの、それを上回るペースで放棄地が発生しているのが現状です。(※2)
※出典
農林水産省 「2025年農林業センサス報告書 調査結果の概要」P.3 図3 1農業経営体当たりの経営耕地面積(全国)
農林水産省「令和8年農業構造動態調査結果 (令和8年2月1日現在)」
出典:農林水産省「荒廃農地面積の推移」(当社一部加工)
・営農意欲を奪いかねない二つの外的リスク
こうした構造課題に拍車をかけているのが、農家が自力で防ぎきれない「外部リスク」の存在です。特に輸入に依存する化学肥料や飼料、ハウス暖房等の燃料価格の高騰は、経営を直撃しています。安価な輸入農産物との競合などから価格転嫁が難しいなか、資材コストのみが上昇する構造が農家の資金的余力を奪い、さらなる規模拡大や設備投資を阻む要因になっています。
出典:農林水産省「令和7年度 食料・農業・農村の動向 令和7年度 食料・農業・農村施策」P.58、63
さらに深刻なのが、地球温暖化による異常気象の常態化です。近年の記録的な猛暑やゲリラ豪雨は、丹精込めて育てた作物を一瞬で台無しにするだけでなく、酷暑下での作業は熱中症のリスクを高め、もはや農家の生命そのものを脅かしています。
公益社団法人日本農業法人協会が公表している「2025年版 農業法人白書」においても、農業法人が抱える経営リスクの上位に「生産コストの上昇」と「天候不順等による収量の減少」が並んでいます。自助努力では防ぎきれない二つの外部リスクが、現場の経営体力と営農意欲を追い詰めています。
出典:公益社団法人日本農業法人協会「2025年版 農業法人白書」P.22(一部抜粋)
新規就農者への手厚い支援が、「定着」につながらない理由
日本の農業は高齢化が進むなかで支えられており、そこには「コスト高」と「天災リスク」という二重の試練を乗り越えていくことが前提にあることが見えてきました。こうした危機感を背景に、国は農業教育の推進、就農フェアの開催、各種資金給付や税制優遇など、さまざまな取組を講じるほか、自治体でも農地や住居の確保支援、求人情報の提供など、新たな農業の担い手を呼び込もうと積極的に取り組んでいます。
これらは農業への関心を持つ若者を招き入れる入口として機能しているものの、就農後には「農地の確保」「資金の確保」「営農技術の習得」といった苦労と直面しており、農林水産省も「就農しても経営不振等の理由から定着できないケースも見られている」と言及しています。(※3)
このほか、新規就農者の定着を難しくさせる要因として、①価格決定権を持たない伝統的な市場構造、②勘と経験に頼る属人的な労働環境、③経営の本質から遠いアナログな事務作業――などが挙げられます。
人手不足時代を生き抜く、現場改革と価値創出のヒント
ここまで見てきたとおり、日本の農業には金銭的な支援だけでなく、働く環境そのものをスマートにできる「イノベーション」と、自力で収益を上げられる「持続可能なビジネスモデル」へのアップデートの必要があるといえそうです。ここからは、先進事例を紹介しながら、人手不足の解決や新たなビジネスチャンスの獲得に向けた具体的なヒントを探ってみたいと思います。
・少人数で広大な農地を守る「スマート農業」の最前線
1法人あたりの経営面積が広がるなか、ICTの活用が進んでいます。たとえば、「営農管理システム」の導入によって、農地情報の一元管理や栽培履歴のデータベース化、ほ場地図のペーパーレス化を実現できるほか、作業の進捗状況をリアルタイムで共有できるなど、効率的な営農が可能です。
このほか、「ロボットトラクターの遠隔監視走行」「ドローンによる肥料・農薬のピンポイント散布」「ラジコン草刈り機の導入」といったマシンの活用にも期待が高まっています。これらは限られた人数でも広大な農地を維持・管理するための大きな助けとなっており、いずれも作業時間の短縮化のみならず、作物の安定化や高品質化にも寄与しています。(※4)
一方、気候変動の影響を抑え、安定した収穫を実現するアプローチとして成果を上げているのが、高度な環境制御技術を用いた「施設園芸(ガラス室やビニールハウスでの栽培)」です。温度や湿度、光量、CO2濃度などをセンシング技術とAIによって最適化することで、天候に左右されることなく収量や品質をコントロールすることができます。そのため、年間を通じた計画生産と生活者への安定供給が可能であり、高収益な農業経営のモデルを確立しています。
・人手不足時代の新しい選択肢――販路開拓による高付加価値化
自ら価格を決定し、生活者に直接価値を届けるマーケティングへのシフトも農家経営の新たな軸になっています。SNSやフリマアプリ、『食べチョク』や『ポケットマルシェ』といった産直プラットフォームを活用したD2Cの取り組みは、中間コストを抑えて高い粗利率を確保する有力な手段になっています。さらには、生産者の経歴やこだわり、想いを同時に発信することで、生産物のブランド化を図ることもでき、納得のいく適正価格で販売できるビジネスモデルの構築につながっています。
一方で、規格通りの収穫物をまとめて引き取ってくれるJA(農協)の系統出荷をベースにすることで集荷や配送の手間を省き、安定した収入を確保しながら、品質の高い生産物や限定品を上述したプラットフォームや自社の開拓ルートで販売する、「ハイブリッド型の経営」も広がっています。一定規模の農業者・農業法人の中には営業部門を設け、スーパーや飲食店に独自に働きかけることで販売網を広げているところも出てきています。
・人手不足の解決と将来のファンづくりを同時に進めるアプローチ
農家民泊や農業体験を通じて地域や農園を外部に開放し、関係人口を生み出すアクションも見られています。近年では、「お手伝い」と「旅」を組み合わせたマッチングサービス『おてつたび』などを活用する動きが活発です。
農家にとって最大の課題である収穫期などの一時的な繁忙期に、ピンポイントで労働者を確保できるため、固定的な人件費や採用コストを抑える有効な手段となります。また、参加者の中には現地でのリアルな体験を、新規就農へのステップアップにするケースもあり、「離農リスク」を低減できる持続可能なルートとして機能し始めています。
・「生産」から「加工・販売」へ。高付加価値化で稼ぐ力を高める6次産業化
1次産業(生産)だけでなく、2次(加工)・3次(販売・サービス)まで一体化させる6次産業化は、前章で挙げた「価格決定権を持たない伝統的な市場構造」を打ち壊し、自力で収益を上げられる持続可能なビジネスモデルへのダイレクトな解になります。たとえば、自社で育てた農畜産物を販売する直売所やレストランの展開、規格外品の加工・商品化による高付加価値化など、独自の強みを生かした成功例は全国各地で見ることができます。
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ここまで、日本の農業が抱える深刻な構造課題と、それを乗り越えるための新たな変化の兆しを見てきました。人手不足や外部リスクという厳しい環境が続くなか、現場ではどのような思考の転換と実効性のある変革が求められているのでしょうか。
後編では、その具体的な解を探るべく、髙橋農林(北海道芽室町)の6代目として農業を営む髙橋龍太(たかはし りゅうた)氏へのインタビューをお届けします。
家族経営の「その先」を見据え、製造業に学ぶ現場改善やデジタル化、さらには関係人口を生み出す先進的な取り組みを進めている髙橋氏。その言葉から、人手不足の壁を突き崩し、持続可能な農業経営を実現するためのリアルな試行錯誤と未来へのヒントを探ります。
出典
※1 農業労働力に関する統計:農林水産省
※2 農林水産省「荒廃農地の現状と対策 令和8年2月|P.3令和6年度の荒廃農地面積」
※3 第2節 力強く持続可能な農業構造の実現に向けた担い手の育成・確保:農林水産省
※4 【参考】農業新技術活用事例(令和5年度調査):農林水産省