【C-hub Meetup Vol.4イベントレポート】ベンダー選定のリアルと葛藤 ~発注側の視点で本音トーク
2025年5月、うるるは、自治体DXの推進におけるキーパーソンであるCIO補佐官が、悩みや課題、取り組み事例などを気軽に共有し、横のつながりを育む実務者視点のコミュニティ「CIO補佐官HUB(略称:C-hub)」を発足しました。
8月21日に行われた4回目のMeetupでは、「ベンダー選定のリアルと葛藤 ~発注側の視点で本音トーク~」をテーマに、当日集まった4名のCIO補佐官が、現場での実体験とITにまつわる豊富な知見を基に、外部連携・調整に関する実務課題について意見交換を行いました。
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【イベントレポート】CIO補佐官HUB Meetup Vol.1 開催レポート~自治体DXを担うキーパーソンが語り合った「CIO補佐官の理想の姿」
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【C-hub Meetup Vol.2イベントレポート】自治体DXの現場から学ぶ、CIO補佐官の信頼構築ナレッジ4選
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【C-hub Meetup Vol.3イベントレポート】自治体DX推進計画の実行現場 計画と現場のギャップをどう埋める?
▼「CIO補佐官HUB」の詳細については、プレスリリースをご覧ください。
自治体DXのキーパーソン「CIO補佐官」初のコミュニティ『CIO補佐官HUB』始動 横の連携を通じて、全国のDX推進力の底上げを目指す ~
Meetup Vol.4参加者紹介:
今 藤彦 氏
長野県茅野市 CIO補佐官下越 幸二 氏
新潟県糸魚川市 CIO補佐官福田 次郎 氏
神奈川県横浜市 CIO補佐官 ※オンライン参加桶山 雄平(株式会社うるる)
徳島県小松島市 CIO補佐官。うるる取締役副社長、うるるBPO代表取締役社長司会進行
カントミント株式会社 取締役CFO 蓑島 智大 氏
元・札幌市 デジタル戦略推進局 デジタル企画課 企画係長※順不同

目次
いざ調達、の前に必要なことは
本題に入る前、アイスブレイクとして交わされたのが、現在、各自治体が導入しているITツールについて。
ここでは、グループウェアの活用をはじめ、隣接する複数の自治体とともに業務系システムを広域導入していることなど、総合行政システム『LGWAN』に対応したクラウドサービスのなかから、どの製品をどのように活用しているのか、情報交換が行われました。
そのなかで、「グループウェアの活用がスケジュール管理や庁内コミュニケーションに閉じており、稟議申請などにつながっていない点は、改善の余地がある」と話す参加者も。その理由として、「既存システムとの連携の煩雑さがネックになっているのでは」と話す別の参加者は、ご自身の経験をもとに自治体の実情をこのように分析します。
「たとえば、私の携わる自治体は職員が1000人に満たず、情報システム部の人員も3、4人ほど。予算規模もとても小さいものです。市内にSlerと呼ばれる企業もなく、職員も数年でローテーションしていくので、現在のシステムを維持することで精いっぱいだろうと思います。ですから、今でも職員さんはエクセルと格闘していたりするんですよね。既存システムをまるで”秘伝のタレ”のように、その時必要な分を継ぎ足しながら使い続けているのが現状です。実際、そういう自治体は多いのではないでしょうか。そこをまず変えていくことが、調達の前にしなければならないことだと思っています」
このように、序盤から現場のリアルを知れる話題が飛び出しました。
ツール選定時、CIO補佐官の対応は何が正解?

続いての話題は、ツールの選定方法について。
「民間企業と情報交換する機会の少ない自治体職員にとってこれは、糸口をつかむこと自体が難しいのでは」という前提のもと、数あるサービスの中から、どのような経緯で起案に至るのか。
その方法は、大きく下記の三つに集約されるようです。
1.他の自治体ですでに実績のあるツールの中から検討
2.定期訪問を受け入れているベンダーからの情報を活用
3.CIO補佐官が候補を提案
しかし、3.について、ある参加者は胸の内をこのように吐露します。
「職員の方から、『目的をかなえるにあたり、どういうツールがあるのか教えてください」と相談があり、指名先候補をお伝えすることはあります。しかし、CIO補佐官は公平性を保たなければならない立場でもあるので、特定のサービス名を挙げるにも、そこは慎重にならざるをえません」
これに対し、各参加者からは下記のような考えが示されます。
「私の場合、以前からお付き合いのあるベンダーさんに、『コスト削減のための相談に乗ってほしい』とアプローチすることはよくあります。コストが下がれば、その自治体は新しいチャレンジができるようになるので、それを名分に進めることもあります」
「誰にとっての公平性なのか、を考えてみるのはどうでしょうか。住民の方にとって使いやすく、メリットのあるサービスもあるので、いいものがあれば、私もどんどん提案しています。むしろ、目的と合致する最良のサービスがあるのに、調達しないほうがおかしいともいえます。
業務システムのように同じ機能を持つサービスが複数あるのなら一般競争入札、市民サービスのように予算の範囲で一番良いものを選びたいのならプロポーザル方式、のように使い分けるのもいいと思います」
「公共SaaS」を成功に導く、ローコードの活用

さて、政府は2025年度末に向け、自治体の標準準拠システムへの移行を進めています。これにより、ガバメントクラウド上の環境で業務アプリケーションを開発し、SaaS形式でサービスを提供する「公共SaaS」の利用が構想されていますが、その実現性や有用性を参加者はどう考えているのでしょうか。
一歩踏み込んだこの話題に対し、口火を切った参加者は、「イケてないものをみんなで使うが一番良くない」と話したうえで、その理由と代替案についてこのような見解を述べます。
「クラウドサービスの一番のネックは、カスタマイズに迅速に応じてもらえないことにあります。ですから、既存のSaaSを使うのではなく、ローコードで基本のテンプレートをつくり、それを他の自治体に頒布して使う方法が正解ではないでしょうか。アジャイルでカスタマイズしていかなければならないものほど、そうあるほうが現実的です。このテンプレートを使い回すことができたなら、なおいいですよね」
また、他の参加者からも、
「ローコードなら、新しいリクエストも一か月で反映できるので勝手がいい。これがパッケージ製品となると、予算を取って開発に年単位をかけて、と大がかりになります。結果として充実したものが出来上がるとは思いますが、そのころには時代が変わっているので、果たして使えるのか……。そう考えると、ローコードで開発するほうが断然良いと思います」
これらの意見には他の参加者も同意を示すものの、同時に「誰がカスタマイズやアップデートをするのか」という新たな課題が、次の議論の呼び水に。
本日のハイライトともいえるほど、活発な会話が繰り広げられたその内容を、一部ご紹介します。
「職員さんはローコードに触りきれていないので、現状、対応は難しい。そのため、カスタマイズはソリューションベンダーに依頼することになります」
「私も、若手職員を中心に『これからは、そういう世界に入っていかなければならないよね』と話しています」
「ローコードは、中央サーバーセンター的に作成できる製品と、パソコン単位やアプリ単位で作成できる製品に大別されますが、後者になると職員の数だけフォーマットの出来上がる未来がやってくることになります。これはガバナンスの問題にもつながるので、避けたいですよね」
「職員が業務で使うものはそれでいいと思いますが、市民サービスに活用するものは、クイックにつくらないほうが安全に思います」
喧々諤々と意見が交わされますが、ここにAIが加わった場合、その未来図はまったく変わる可能性も。SaaSの導入・開発においては、システム構築から稟議書の作成までAIが代行する将来にも思いを至らせながら、調達を判断していく必要がありそうです。
AIツール導入の前に。準備しておきたい三つのポイント

ここからの話題は、AIが主軸に。この領域にもたくさんの優良なプロダクトが存在していますが、ベンダー選定の前にクリアしなければならないステップが多くあることが、参加者同士の会話から分かってきました。
ここでは、そのポイントを項目立てて紹介します。
・ポイント1:AIレディにしておく
「AIレディ」とは、AIを活用するための準備が整った状態のこと。このスタート地点に立つには、AIに読み込ませるデータをあらかじめ用意しておく必要がありますが、「その準備は不十分」と、参加者の一人は話します。
「どこの市町村でも、業務フローとマニュアルが整備されていると思いますが、それらはAIに読み込ませるために行われているわけではありません。紙でも存在するし、職員のローカルフォルダや引き出しの中に入っていることも考えられます。この状態からAIレディにするには、あらゆるドキュメントが、「正確」かつ「最新」の状態で、「規則性をもってフォルダに分類されている」ことを目指す必要があります」
さらには、AIレディを目指すにあたって、「旗振り役となる、チーフ・ラグ・オフィサーの調達を検討できる」とも。
「民間では、フォーマットがバラバラのため、AIに読み込んでも精度が悪くて使えない、という課題が出始めており、データ整備をサポートしてもらえる協力会社を探す動きが続々と生まれています。自治体でもデータ整備を目的とした調達が行われるようになると、まさにAIレディに向けて走れる予感がします」
別の参加者からも、
「無理にセマンティック(AIが意味や語意を理解すること)にする必要はないものの、正しいフォルダに正しい情報があることによって、この先はAIがマニュアルづくりを助けてくれる未来がやってくるかもしれません。「足りない情報はありませんか?」と聞いたら、AIが教えてくれるような。様式統一しようにも、それだけで2、3年かかってしまうので、この辺りもAIに助けてもらえるようにできるといいですよね」
と、AIの働きに期待する意見が上がりました。
・ステップ2:読み込ませる情報を明らかにする
たとえば、現在、Google Workspaceを導入する自治体がジワジワと増えています。Googleの生成AI「Gemini」を使って業務を進めるケースも今後考えられますが、そこで留意したいのが、「AIにどこまで情報を読み込ませるのか」。
「情報漏洩リスクを調査し、その結果を見て判断することになる」というのが、参加者の大方の見方ですが、AIツールの導入が決定している自治体のCIO補佐官の話からは、初期段階における活用イメージをつかむことができそうです。
「基本は、開示されている情報、つまりは誰の目に触れても問題ない種類のうち、より効率的に使える情報から活用することになります。たとえば、財務規則は、職員さんの誰もがしょっちゅうこれで稟議や調達のルールを調べているので、この辺りは効果を見込めそうです。加えて、議会に挙げられた一般質問の回答づくりでも、過去の議事録を読み込ませて参照しやすくしておけば、回答をつくるスピードもグンと高まると考えています」
・ステップ3:アクセス権の付与を考えておく
使うAIも部署や担当によって異なる場合、どのAIにどのアクセス権を付与するのかを考えておく必要がありそうです。
このほか、導入前に押さえておきたいポイントとして、下記のような意見もあがっています。
「政策を考えるために活用したいのなら、そのためのデータセンターを置くような大規模な調達になると思いますが、住民が使う申請書の作成くらいであれば、スモールなオンプレミスで十分です。換言すると、必要以上にAIに知恵を付ける必要はない。間違ったアウトプットにつなげないためにも小さくつくる、という考え方はあってもいいと思います」

話したいことは尽きそうにありませんが、白熱のワークショップはここでタイムアップ。その後の交流会でも、時間を惜しんで意見交換する参加者の姿がありました。
Vol.4は少人数での開催となりましたが、そのぶん深く、ベンダー選定に留まらない多岐にわたる話題について話し合うことができました。まさに歯に衣着せぬ“本音トーク”によって、お互いのノウハウを共有し合う時間となりました。
うるるは引き続き、自治体DXのキーマンとなるCIO補佐官の方に対し、情報交換やネットワーキングの機会を提供することで、自治体DXの底上げと促進を目指してまいります。