OPEN FACTBOOK
2024/01/18

業界研究②看護師の人手不足を考察します!~「オープンファクトブック#9」

みなさん、こんにちは。うるる取締役 ブランド戦略部長の小林です。

私たちは「労働力不足解決のリーディングカンパニー」として、日本が抱える深刻な社会問題である労働力不足問題と日々向き合っています。

その活動の一環として、当問題の実態や私たちの生活への影響について多くの方に知ってほしいと願い、「オープンファクトブック」を実施しています。このオープンファクトブックでは労働力不足にまつわる実態、課題、展望などを解説していきます。

さて、日本商工会議所・東京商工会議所は2023年9月、『人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査』の結果を公表しました。

ここでは調査に協力した全国の中小企業6,013社の約7割が「人手不足」と回答しています。なかでも深刻なのが、「介護・看護業」(86.0%)、「建設業」(82.3%)、「宿泊・飲食業」(79.4%)であり、最も低い「製造業」でも6割近くが、人手が「不足している」と回答しています。

引用:日本商工会議所・東京商工会議所(2023年9月28日)「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」調査結果 P.7
https://www.jcci.or.jp/20230928_diversity_release.pdf

今回は、「看護業(保健師、助産師、看護師、准看護師)」にフォーカスし、人手不足の現状と背景を明らかにしながら、国や企業の取組を参考に解決の糸口や今後の展望について考えてみたいと思います。

看護業の実態

厚生労働省の資料によると、2020年現在、約173.4万人が看護職員として就業しており、その9割以上を女性が占めています(※1)。


一方、看護師免許を持ちながらも看護業に就業していない「潜在看護師(65歳未満の看護師、准看護師)」は、69.5万人(2018年)と推計されています(※2)。なお、直近5年の新規免許取得者は5.6万~5.9万人で推移しています(※3)。

さて、看護業の人手不足は実際どのくらいなのでしょうか。


「保険師・助産師・看護師」の2023年11月の有効求人倍率(パート含む常用)は2.11倍であり、全体の1.28倍を大きく上回っています。(※4)
これは10人の募集に対し、5人程度しか集まらないことを意味します。この傾向は数年前から続いていることが下記グラフからもうかがえます。

引用:厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況(令和5年7月7日)」P7
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118192.pdf

実際、医療現場からも看護師不足の声が聞こえています。一般社団法人日本病院会が行った調査(2023年)では、「看護職員が現在不足していますか」の設問に対し、75%の病院が「不足している」と回答しています。

引用:一般社団法人日本病院会「看護師の確保状況に関する緊急調査(最終報告)」P2
https://www.hospital.or.jp/site/news/file/1682390031.pdf

続いて将来予測です。厚生労働省は「訪問看護を含む介護分野での需要の増大等に伴い、2040年以降、看護職員の需要が増大する」と推計しており、下記グラフのとおり「介護施設・事業所」においては、2025年度から2040年度にかけて10万人の人材投入を必要としています。

引用: 厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況(令和5年7月7日)」P8
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118192.pdf

高齢者の増加とともに、訪問看護事業所の数も年々増加しています。
訪問看護ステーションは2018年の1万418件から、2023年は1万5,697件と5年間で1.5倍に増えています(※5)。要介護者の受け入れ体制の拡大は、看護職員のニーズ拡大に直結しているといえるでしょう。

看護職員不足の背景にあるもの

看護職員は、なぜ不足しているのでしょうか。
それは「看護需要の拡大」だけではありません。ここでは上述した一般社団法人日本病院会の調査のうち、看護師の「離職する理由についてお聞きします〔複数回答可〕」の上位回答である「結婚・出産等のため」「業務が負担」「人間関係による」の三つについて、類似資料を参照しながら、その背景を考察してみます。

引用:一般社団法人日本病院会「看護師の確保状況に関する緊急調査(最終報告)|」P4(当社一部加工)
https://www.hospital.or.jp/site/news/file/1682390031.pdf

①結婚・出産等のため
9割以上を女性が占める看護業では、結婚・出産、さらには子育てといったライフイベントを迎える20~40代で離職する人が一定数いることが分かっています。

引用: 厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況(令和5年7月7日)」P14
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118192.pdf

とはいえ、この傾向は他職種でも見られるものです。
看護業で顕著なのは、イベントが落ち着いたタイミングでカムバックする人が少ないことです。

下記は年齢階級別にみた女性の労働率のグラフです。いわゆる『M字カーブ』の溝は年々浅くなっていますが、看護師の場合、その溝にくびれのあることが分かります。数値は一概に比べられませんが、グラフからその傾向を読み取ることができます。

引用:内閣府「令和5年版男女共同参画白書|P10 特-3図 女性の年齢階級別労働力人口比率の推移」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdf/r05_print.pdf

引用:看護職員の年齢階層別百分率(平成26年末、令和2年末)(当社一部加工)
https://www.nurse.or.jp/nursing/home/statistics/pdf/toukei07.pdf

これはライフステージが変わったことを機に、家族の生活スタイルに配慮した生き方を模索するようになり、その結果、看護職としての復帰をためらう人が多くなったのでは、と推察できそうです。

②業務の負担が大きい
看護需要の増加、人手不足へのフォローが加わり、一人の看護職員にかかる負担は大きくなっていることが考えられます。
人の命によりそう看護業は、責任の重さはもとより、医療事故のリスクもつきまとう心身ともにハードな職業です。夜勤をはじめとする変則勤務が求められる現場も多く、そのやりがいはライフステージの変化によって負担に転じることも起こり得るでしょう。
これは、①の理由が生まれる要因につながっていることも考えられます。

③人間関係による
女性が9割以上を占める看護業は、他の職種よりも人間関係に悩みを抱える人が多くいても不思議ではありません。激務と失敗の許されない環境から精神的な余裕を失ってしまうことで、人間関係にひずみが生じることも考えられるでしょう。
さらには、同じ職種である看護職員だけでなく、患者さんとその家族、医師、薬剤師と関係する人は多く、これら複雑な人間関係が働く環境として難しくさせているのかもしれません。

人手不足解消のための打ち手とは

看護職の人手不足解消に向け、国も対策に講じています。
その一つが、「専門実践教育訓練給付制度」です。これは看護関係資格の取得を目指す社会人経験者の教育訓練の受講を支援するものであり、受講者は年間40万円を上限に国から給付金を受けることができます。

また、受講修了から1年以内に看護師免許を取得し、就職した場合には受講費用の20%(上限あり)が追加受給されます。このほか看護職員に対する復職支援、看護職員の定着促進といった施策を通し、看護職員の確保に努めています。(※6)
これら国による包括的な支援をバックに、各事業者ができる対策について考えてみたいと思います。

①潜在看護師に復帰してもらう
一番効果が高そうなのは、全国に約70万人いる潜在看護師に戻ってきてもらうことです。
以下のグラフは、潜在看護師にあたる人に看護職員としての就業を希望しない理由を尋ねたものです(少し古い資料にはなりますが、ご容赦ください)。

引用:厚生労働省「看護職員就業状況等実態調査結果(平成23年3月31日)|P19」(当社一部加工)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017cjh-att/2r98520000017cnt.pdf

ここでは、「看護業務から離れていたことによる不安がある」「本人の健康問題」「家事・育児のため仕事が続けられそうにない」といった項目が目につきますが、これらが解決するのであれば、看護業界が再就職先の候補として挙がるようになるかもしれません。
たとえば、入職前研修の充実やOJTの徹底、時短勤務や電話相談専門職員としての在宅勤務、他業種とのダブルワークの認容、院内保育園・院内学童の設置など、取り組めることは多くありそうです。

②他職種へのタスクシフト
看護職の業務をひっ迫する理由の一つに、専門スキルを必要としない業務に時間を割かれていることが考えられます。

たとえば、外部からの電話対応、診察受付、カルテの出し入れ、シーツ交換などです。これらの業務を看護補助者やメディカルクラークに移管できれば、業務効率が上がるだけでなく、患者さんと向き合う時間やスキルアップのための時間が生まれます。
こうして本業に打ち込めることができれば仕事の充実感が高まり、就業意欲の向上も期待できそうです。


ちなみに、公益社団法人日本看護協会は、看護補助者へのタスクシフト、タスクシェアによって、時間を増やすことのできた看護職の業務として下記を挙げています。

引用:公益社団法人日本看護協会「タスクシフト/シェア」P3
https://www.nurse.or.jp/nursing/shift_n_share/fixation/pdf/necessity.pdf

③スキルアップの支援
日進月歩で進む医療にとって、日々学ぶ姿勢は不可欠といえるでしょう。
学ぶための時間の確保、学会に参加するための費用負担、高度資格取得に対する手当の支給といった支援体制を整えることも一つの方策といえそうです。

スキルアップがかなった看護職員が一人分以上の働きを見せれば、現場の質は上がるだけでなく、人員配置に余裕が生まれたり、一緒に働く人への好影響が見込まれたりと、職場の良い風土づくりにもつながるでしょう。

④DXの導入
近年、医療にまつわるDXは進んでおり、省人化、効率化の一役を担っていることが分かります。

たとえば、公益社団法人日本看護協会が主催する『看護業務の効率化先進事例アワード2022』受賞企業の取組をみると、「医療機器と電子カルテのデータ共有による看護業務の効率化」(社会福祉法人恩賜財団済生会 松阪総合病院)、「患者の転倒転落リスクをAI で予測し多職種連携で個別ケアを実践する!」(社会医療法人石川記念HITO 病院)、「搬送ロボットを導入した看護師のカイゼン活動」(トヨタ自動車株式会社トヨタ記念病院)といったタイトルが並んでいます。

なお、看護師の柔軟な働き方を支援するソリューションとして注目したいのが、株式会社フォニムが提供する、潜在・副業看護師の求人プラットフォーム『CURA(クーラ)https://www.cu-ra.net/』です。このサービスを活用すると、看護師は「スキマ時間に働く」「単発で働く」など自分の希望に合った柔軟な働き方を実現でき、医療機関は、人員が足りない時間帯や診療科に絞って効率よく募集できます。

看護職員の募集にあたっては、「紹介会社・派遣の活用によるコスト増加」を課題とする声が一定数見られています。

具体的には、「紹介会社のみならず派遣を使うことでの、採用に係るコスト増大も大きな問題」「採用できても夜勤不可ばかりで高額かつ期間限定の応援ナースに頼らざるを得ない状況」「高額な紹介手数料は経営の圧迫につながるだけでなく、求職活動の妨げにもなっている」というものです(※7)。

その点、CURAは専門エージェントに支払うコストを抑止しつつ、潜在看護師には柔軟な働き方と高単価を提示できるため、現場に看護師を呼び戻す手段の一つとして期待できそうです。

終わりに

医療の現場における長時間労働の常態化は、医療過誤による人命リスクをはらんでおり、人手不足の早期解決が求められる職種の一つです。

また、この4月からは『医師の働き方改革』がスタートすることから、看護師には専門性の高いスキルがいっそう求められています。来たる時代の要請に応えようと志と向学心を高く持つ看護職員のためにも、その気持ちを挫くことのない環境整備は早急の課題といえそうです。

まとめ

・現在、看護職員として働く人は173万人を超える一方、看護師資格を持ちながらも看護職員として働いていない「潜在看護師」は、約70万人いるとされている。
・「看護職員が不足している」と答える医療機関は75%に及ぶ。実際、有効求人倍率はこの数年2倍台で推移している。
・看護職は結婚・出産~子育てを経て復帰する人が、他業種と比べて少ない。その背景には、「業務負担の大きさ」「人間関係の複雑さ」がありそうだ。
・看護職の人手不足解消の策として「潜在看護師の復帰」「他職種とのタスクシェア」「スキルアップ支援」「DXの導入」が考えられる。

■参考・出典
※1  厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況(令和5年7月7日)」P2,P5
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118192.pdf

※2 厚生労働科学研究成果データベース「五十嵐中,池田俊也.潜在看護職員数の推計.厚生労働科学研究費補助金地域医療基盤開発推進研究事業 新たな看護職員の働き方等に対応した看護職員需給推計への影響要因とエビデンスの検証についての研究.小林美亜.令和 2年度分担研究報告書」P9,P13
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202022038A-buntan1.pdf(令和6年1月7日に利用)

※3 第109回保健師国家試験、第106回助産師国家試験及び第112回看護師国家試験の合格発表|厚生労働省はじめ、過去の試験結果を参照
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2023/siken03_04_05/about.html

※4 一般職業紹介状況(令和5年11月分)について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/001182864.pdf

※5  一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和5年度 訪問看護ステーション数 調査結果」
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r5-research.pdf

※6 厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況(令和5年7月7日)」P58
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118192.pdf

※7 一般社団法人日本病院会「看護師の確保状況に関する緊急調査(最終報告)」P5
https://www.hospital.or.jp/site/news/file/1682390031.pdf

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