OPEN FACTBOOK
2023/11/24

業界研究①介護業界の人手不足を考察します!~「オープンファクトブック#8」

みなさん、こんにちは。うるる取締役 ブランド戦略部長の小林です。

私たちは「労働力不足解決のリーディングカンパニー」として、日本が抱える深刻な社会問題である労働力不足問題と日々向き合っています。その活動の一環として、当問題の実態や私たちの生活への影響について多くの方に知ってほしいと願い、「オープンファクトブック」を実施しています。このオープンファクトブックでは労働力不足にまつわる実態、課題、展望などを解説していきます。

さて、日本商工会議所・東京商工会議所はことし9月、『人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査』の結果を公表しました。ここでは調査に協力した全国の中小企業6,013社の約7割が「人手不足」と回答しています。なかでも深刻なのが、「介護・看護業」(86.0%)、「建設業」(82.3%)、「宿泊・飲食業」(79.4%)であり、最も低い「製造業」でも6割近くが、人手が「不足している」と回答しています。

引用:日本商工会議所・東京商工会議所(2023年9月28日)「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」調査結果 P.7
https://www.jcci.or.jp/20230928_diversity_release.pdf

人手不足は、労働力不足に直結する大きな問題です。そこで、第8回となる今回からしばらくは、毎回一つの業界にフォーカスし、その業界が抱える人手不足の現状と背景に迫りながら、国や企業の取組を参考に解決の糸口や今後の展望について考えてみたいと思います。
今回は、「介護業」を取り上げます。

介護業界の現状


団塊世代全員が 75 歳以上となる 2025 年、日本はいよいよ超高齢化社会に突入し、要介護者の大幅な増加が予想されています。いわゆる「2025 年問題」といわれるものですが、これにともない介護人材の需要はますます高まることになります。しかし、少子化による生産年齢人口の減少もあって、その確保は喫緊の課題です。厚生労働省は、2025年度、介護人材は約32万人不足するという試算(※1)を公表しています。

引用:厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02977.htm

この兆候は以前から表れています。その一つが、有効求人倍率です。2023年9月の介護関係職種(介護サービス職業従事者)の有効求人倍率は3.96倍であり、全職種の1.29倍を大きく上回る水準です。(※2) これは過去の推移を追っても高い水準にあることが分かります。

引用:厚生労働省「令和4年版 厚生労働白書」P.39
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/21/dl/1-01.pdf

介護業界が抱える三つの課題

このように介護業界は長年人手不足に悩まされている業界であり、将来にわたってもその懸念が拭えないことが分かっています。なぜ、介護業界は慢性的な人手不足が続いているのでしょうか。その背景は複層的ではありますが、今回は3点取り上げてみようと思います。

①賃金が低い
国税庁の発表(※3)によると、令和4年における給与所得者一人当たりの平均給与は 458 万円とされています。一方、介護保険の指定介護サービス事業所で働く人の平均年収は、376万円(令和3年の年収。勤続 2 年以上)(※4)であり、ここには82万円の開きがあります。介護業界で働く人も、労働条件等の悩みや不安、不満として「仕事内容のわりに賃金が低い」(41.4%)を2番目に多く挙げています(ちなみに、最も多い項目は「人手が足りない」(52.1%)です)。

給与が低く設定されているのには、介護事業が国の定める介護報酬制度のもと営まれていることが関係しています。実際、厚生労働省のウェブサイトには、このような記述があります。

介護報酬は、介護保険法上、厚生労働大臣が社会保障審議会(介護給付費分科会)の意見を聞いて定めることとされている。
引用:介護報酬について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/housyu/housyu.html

つまり、報酬額を国が決めているため売上には上限があり、他業種のように「売上を上げて、社員に還元しよう」という方針を立てられないことが、年収アップの足かせとなっているのです。その結果、他業種よりも賃金的な魅力を高めることができず、就業希望につながらない=人手不足の理由になっています。

②「厳しい労働環境」というイメージ
介護職種未経験者を対象に行った調査では、介護業界での就業をためらう理由として「心身ともに大変な仕事」であり、「給与水準が低く」、「個人の向き・不向きがはっきり」しているというイメージがあるからとしています。一方、就業者に悩みや不安、不満を尋ねた調査でも似たような項目が上位に挙がっています。こうした理由が介護業界での就業の敬遠につながっていることが考えられます。

③人間関係の問題
介護業界は人間関係の問題や悩みを抱えやすいことも、働き手が集まらない理由の一つと言えそうです。
直前の仕事が介護関係だった人の離職理由の上位は、「職場の人間関係に問題があったため」(32.0%)、「他に良い仕事・職場があったため」(25.7%)、「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」(20.2%)といった回答で占められており、職場を転々としていたり、経営者や上司の方針と折り合わなかったりする状況もうかがえます。

引用:公益財団法人介護労働安定センター「令和 4 年度介護労働実態調査特別編 介護労働実態調査等検討委員会委員による令和4年度介護労働実態調査への特別寄稿(令和5年9月)」P.8(当社加工)
https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/r4_tokubetsukikou.pdf

離職が発生すれば、事業者は新たな採用に向け動くことになりますが、人間関係が理由の場合、そこを改善しないことには次の離職者が出てしまい、人手不足はなかなか解消されません。賃金の低さや業界のイメージから、採用活動自体がスムーズにいかないことも考えられるでしょう。

人手不足解消のために。介護業界で始まっている取組

人手不足の解消に向け、介護業界はどのような改善策に講じていけばよいのでしょうか。この章では国の対策や先進的な取組を紐解くことで、そのヒントを探ってみたいと思います。

①報酬改定と処遇の改善
政府はこの10月、介護職員の賃上げを経済対策に盛り込む方針を示しました。引き上げ額は月6,000円程度の見込みであり、これによって他業種への人材流出を防ぎ、人手不足の緩和をねらいます。

この賃上げですが、昨年も報酬改定によって月額9,000円程度引き上げられており、働く人の処遇改善が進んでいます。介護報酬は来年度の改定でさらに引き上げられる方針であり、給与水準を上げることが人手不足解消の呼び水になれば、と期待されています。

②女性やシニアの活用、外国人材の受け入れ
このオープンファクトブックでも触れてきたとおり、女性やシニアの積極的な支援と活用は介護業界でも求められています。

直前の仕事が「医療関係の仕事」「介護・福祉・医療以外の仕事」だった現訪問介護員のうち、直前の仕事の離職理由として「結婚・妊娠・出産・育児のため」を挙げた人は最も多いというデータがあります。これは、結婚後の基盤が整ったことや、育児の一段落を機に介護業界をフィールドに仕事を再開する人が一定数いることを示唆しています。

引用:公益財団法人介護労働安定センター「令和 4 年度介護労働実態調査特別編 介護労働実態調査等検討委員会委員による令和4年度介護労働実態調査への特別寄稿(令和5年9月)」P.8(当社加工)
https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/r4_tokubetsukikou.pdf

また、65歳以上の人を雇用する介護事業者は約7割に及んでいる(※5)ことを踏まえると、介護事業所はシニアが活躍できる職場であるともいえるでしょう。なお、外国人材の活用にあたっては、国が在留資格の見直しを図ることで外国人労働者に日本の介護の現場で活躍してもらうためのシナリオを描いています。
こうした多様な人材の活用は、人手不足に歯止めをかける力を持っているといえそうです。

③テクノロジーの活用による業務負担の軽減
人手不足解消のカギを握る一つが、テクノロジーの活用です。タブレット端末にケア記録を入力することで申し送りを確実かつ効率的にしたり、インカムを導入してコミュニケーションの迅速化と円滑化を図ったりと、大掛かりな導入ではなくとも大きな効果を期待できるものがあります。

また、利用者の転倒やベッドからの転落を防ぐためのセンサー端末、車イスからベッドへの移乗時やトイレ介助時等の身体的負担を助けるロボットスーツなど、介護の現場で働く人のウェルビーイングを追求した新しい技術も続々と登場しています。

こうした取り組みによって離職率の低下に取り組んだ事業者に対し、国は助成金の交付(※6)や、夜間の人員基準の緩和を行う(※7)ことによってバックアップしています。

さて、私たちうるるも、介護現場の負担を軽くするサービスを展開しています。事業所の電話受付を代行して、チャットやメールでその内容をお知らせする『fondesk(https://www.fondesk.jp/)』は、訪問介護のため事業所を不在にする場合や、利用者対応に集中したい現場等で広く導入されています。『fondesk』の利用によって電話の取り逃しがなくなるほか、電話が鳴るたびに業務を中断したり、無為に時間を取られたりすることがなくなるため、導入企業様からは「利用者と向き合うことに集中できる」と好評です。

「電話対応」という業務を見直す。これはささいな改善ですが、それでも現場負担の軽減に確実につながっており、人員配置の効率化による離職防止、「介護は大変」というイメージの払しょくに寄与できる可能性をはらんでいることは、ぜひとも知っていただきたい部分です。

終わりに

介護は社会に必要とされる、大変やりがいのある仕事です。こうしたポジティブな面を積極的に発信しながら、誰にとっても働きやすい勤務体系や制度を整え、風通しの良い風土を醸成し、現場負担を軽くするツールをうまく導入していくことが人手不足解消の手立てとなっていくはずです。

なお、現在の事業所への就職のきっかけとして、「友人・知人からの紹介」を挙げる人が4割いる(※8)点は、着目したいポイントです。つまり、リファラル採用が大きな効果を生む業界であり、事業所内で形成された評判が新たな働き手を呼び込むきっかけになりうるということです。さまざまな対策を講じながら、いまいる職員のエンゲージメントを高めていくことも、とても大切なことだといえそうです。

まとめ

・厚生労働省は、2025年度、介護人材は約32万人不足すると試算している。
・介護人材が不足する理由として「低賃金」「ネガティブなイメージ」「職場の人間関係」が挙げられる。
・人手不足の解消にあたり、国は介護報酬の引き上げによる賃金アップに講じている。
・事業所の自助努力として、多様な人材の採用、テクノロジーの導入が検討できる
・介護業界は、リファラル採用が期待できる。いまいる職員のエンゲージメントを高めていくこともまた大切である。

■参考・出典
※1 介護人材確保に向けた取組について | 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02977.html
※2 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年9月分)について|参考統計表」1、7-1
 https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/001159972.pdf
※3 国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査(令和5年9月)」P.14
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2022/pdf/002.pdf
※4 公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について」P.5
https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2023r01_chousa_gaiyou_0821.pdf
※5 公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について」P.4
https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2023r01_chousa_gaiyou_0821.pdf
※6 厚生労働省「人材確保等支援助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_07843.html#20002a
※7 厚生労働省「令和4年版 厚生労働白書」P.93
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/21/dl/1-02.pdf
※8 公益財団法人介護労働安定センター「令和 4 年度介護労働実態調査特別編 介護労働実態調査等検討委員会委員による令和4年度介護労働実態調査への特別寄稿(令和5年9月)」P.10
https://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/r4_tokubetsukikou.pdf

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