VISION
2025/09/16

派遣、産休、時短、そしてフルタイム勤務へ──キャリアの不安を乗り越えた、私なりの「じぶん配分」

ライフステージの変化のたびに、仕事や家庭との向き合い方に悩む、すべての女性へ──。

連載「はたらく私のじぶん配分」では、さまざまな葛藤や努力の先に、自分らしい心地よいバランスを見つけた女性たちのリアルなストーリーをお届けします。

この連載は、『はたらく私の「じぶん配分」』プロジェクトの一環として展開しており、さまざまな視点から実際の「じぶん配分」を可視化することで、すべての働く女性が「今の自分に合った働き方とは何か」を考えるきっかけを提供します。

そして、一人ひとりが「今の自分にとってのベストな配分」で働ける社会の実現を目指します。

『はたらく私の「じぶん配分」』特設サイトはこちら:

https://www.uluru.biz/mlp/jibunhaibun

「このまま派遣社員で働き続けて、私のキャリアはどうなるんだろう」

「産休に入ったら、もう社会には戻れないかもしれない」

今回お話を伺った廣瀬さんも、かつてはそんなキャリアへの強い不安を抱えていました。就職氷河期に社会に出て、派遣社員から正社員へ。そして出産とシングルでの子育て、時短勤務を経て、2024年の10月から再びフルタイム勤務の働き方へ。目まぐるしく変わる環境の中で、彼女はどのようにして自分らしいワーク・ライフ・バランスを見つけていったのでしょうか。

廣瀬さんの歩んできた道のりが、あなたの「次の一歩」のヒントになれば。

フルタイム勤務と副業、そしてシングルでの子育て。多忙だけれど「満足度は高い」

──まず、これまでのキャリアと、現在どのようなお仕事をされているのか教えていただけますか?

私は2000年に大学を卒業後、海外での勤務や派遣社員を経て29歳の時に「簿記」の資格を取得し、税務会計業界に入りました。そこから約10年間、正社員としてキャリアを積んできましたが、出産を機に産休・育休で2年弱お休みすることになります。

その後は約6年間、時短勤務で働いていました。そして2024年の10月から再びフルタイム勤務となり、現在は会計事務所で税務に関するお仕事をしながら、空いた時間で『シュフティ』などのクラウドソーシングを通じて、ライティングの副業も続けています。ライティングの仕事は産休・育休を機に始めました。

──税務会計のお仕事と副業、そして子育てと、非常に多忙な毎日かと思いますが、普段はどのような1日を過ごされているのでしょうか。

朝は6時前に起きて、まずは子どもと自分のお弁当作りから始めます。子どもを学校に送り出してから大体9時15分頃に出社。17時の定時まで働いて、帰宅後は子どもの習い事の送迎や夕食の支度など本当にあっという間に時間が過ぎていきますね。

子どもが寝た後の23時以降が自分の時間です。本当はもっと早く寝たほうが、翌日が楽なのは分かっているのですが、ついついサブスクリプションサービスで映画を観たりしてしまいます(笑)。

──密度の濃い一日ですね。その目まぐるしい毎日を、廣瀬さんご自身はどのように感じていらっしゃいますか?

今の生活の満足度は高いと思います。

もちろん、昔描いていたキャリアパス──例えば「税理士の資格を取って、会社でどんどん昇進していく」、といった道とは違う働き方をしています。でも、それで残念だとは全く感じていないんです。

昔は、就職氷河期を経験したこともあり、「自分の力でキャリアを切り開かなければ」という思いが強く、常に気を張ってどこかトゲトゲしていたように思います。

でも今は、『シュフティ』などを通じて出会ったクライアントさんや、子育てに理解のある現在の職場の皆さんなど、本当に多くの方に支えられていて……。そのおかげで、今の私と子どもがいるんだな、と心から感謝しています。

「35歳で仕事がなくなる」。派遣時代の恐怖と、がむしゃらに働いた会社員時代

──昔は「トゲトゲしていた」というお話がありましたが、当時はどのような心境だったのでしょうか?

20代の頃は、とにかく必死でしたね。

大学を卒業したものの就職氷河期で正社員になれず、派遣社員としていくつかの大手企業で働いていました。周りからは「大手企業で働いているなんて、すごいね」と言っていただくこともありましたが、派遣社員という立場上、その言葉を素直に喜べない自分がいました。

常に「いつ契約を切られるか分からない」という不安が心のどこかにあったんです。

──確かに派遣社員となると、そうした不安がありますよね。

私の周りでは、「派遣社員は35歳まで」という話をよく耳にしました。英語が少しできる、事務作業ができる、というだけでは、スキルを持った新しい若手にどんどん仕事が移ってしまうのではないか、と。

そうした恐怖から自分を守るために、何か専門的なスキルを身につけなければと強く思いました。私にとってはそれが、簿記の資格を取って未経験から税務会計の業界に飛び込むことだったんです。

──不安が、専門的なスキルを身につけるという次のステップに繋がったのですね。

ええ、その一心でしたね。そこから約10年間は仕事に没頭しました。

税理士の資格取得を目指し、会社の中でポジションを上げていくことだけを考えていました。派遣社員時代に感じていたような不安を二度と味わいたくない、という気持ちで、とにかく自分の市場価値を高めることだけを考えていたように思います。

そんな風に、仕事に100%の力を注いでいたところ出産をしました。それが、私の生き方を大きく見直すきっかけになったと思います。

キャリア中断と、社会から取り残される恐怖。一人きりの育児で感じた焦り

──当時は、仕事への復帰などについてどのようにお考えだったのですか?

正直なところ、私は出産というものを少し甘く見ていて、「出産してもすぐに時短で復帰しよう」くらいに考えていました。10年間、仕事に打ち込んできた自負もありましたし、何とかなるだろう、と。

でも、実際に子どもが生まれてみると、新生児のいる生活は想像とは全く違いました。肉体的にも大変で、正直なところ、すぐに働くなんてとても考えられる状況ではなかったですね。

そんな中、一番辛かったのは「社会から完全に取り残されてしまった」という感覚でした。

一日中、0歳の子どもと二人きりで誰とも話さない日もあって、気がつくと社会で使われる言葉を忘れていたり、「私、このまま社会復帰できるのかな」という不安に押しつぶされそうになったり。

キャリアが中断してしまうことへの恐怖と、復帰した時に自分の居場所はあるのかという焦り。そして、シングルマザーとして子どもを育てていかなければならないというプレッシャー。

たまに児童館などで他のママさんと話しても、「私は社会に復帰する身なのに、こんなにのんびりしていていいのだろうか」と、また別の焦りが生まれてくるんです。

「このままではいけない。社会との繋がりをどうにかして保たなければ──」。そんな焦りから、「復職前の育休期間でも何とか社会との繋がりを保ちたい、仕事の感覚を忘れたくない」と考え、「育休期間中でもできる働き方・仕事はないか」という次の行動へと突き動かしました。

「私には無理」という思い込み。その壁を壊してくれた、とある気づき

──「育休期間中でもできる働き方を探す」といっても、育児をしながらだと、何から手をつけていいか分からなくなりそうです。

まさにその通りで、頭では「動かなきゃ」と分かっているのに体がついてこない感覚でした。未知の世界に飛び込むのが、ただただ怖かったんです。そんな時、ふと思い出した出来事がありました。

私はもともと虫が大嫌いだったのですが、ある日、知らない女の子が私の手のひらの上に、そっとダンゴムシを何匹も乗せてきたことがあったんです。もう恐怖でしかなかったのですが、その子のキラキラした目を見ていたら振り払うわけにもいかず……。覚悟を決めて、じっと手のひらを見ていた瞬間に、ふと「あれ、私、大丈夫かも」と何かが吹っ切れたんです。

──虫嫌いの人には身の毛のよだつ出来事ですね……。

本当ですよ(笑)。でも今となっては感謝しないといけないって思います。私が「嫌い」で「無理」だと思っていた壁は、自分自身が作っていたんだと気づかされたので。

あの時の「怖い」という感情は、ダンゴムシそのものというより、「よく分からないものに触れてしまう」ことへの漠然とした抵抗感だったんです。

そして、キャリアのことも全く同じだと気づきました。育休中の私にとって、「在宅でできる新しい仕事を始める」ことは、まさに“よく分からないもの”です。

「専門スキルも活かせない単純作業ばかりなんじゃないか」、「社会から断絶されたブランクのある私には、もう無理なんじゃないか」と、挑戦する前から勝手に決めつけて無意識に心を閉ざしていました。

でも、あのダンゴムシの出来事が、「触れてみないと、本当のことは分からない」と教えてくれた気がします。そんな「まずは触れてみよう」という気持ちで探し当てたのが、『シュフティ』のようなクラウドソーシングサービスでした。

そして、育児の合間に未経験からライティングの仕事などを少しずつ始めたんです。そこでなにより嬉しかったのは、社会との繋がりを再び感じられたことですね。その安心感が心の余裕を生み、おかげで「もっと専門的な仕事にも挑戦してみよう」と前向きになることができました。

そこで出会った入札関連の仕事を通じて専門的な知識が身につき、今のフルタイムの仕事に繋がっているので、あの時の小さな一歩が今の私に繋がっているんだなと、実感しています。

人生でたった2年のかけがえのない時間へ。未来の自分を助ける「仕込み」のススメ

──在宅での仕事がきっかけで、再びフルタイムで働くという道が開けたわけですが、働き始めたことで今度は仕事と子育ての両立という新しい課題に直面されたのではないでしょうか?

そうですね。再び働き始めた頃は、昔のように仕事で100%の力を出したい自分と、母親としての役割を果たしたい自分との間でいつも葛藤していました。

そんなある日、仕事のことで頭がいっぱいになっていた時に、息子が言ったんです。

「僕たちは家族なんだよ」って。

その言葉に、ハッとさせられました。私は今まで、自分のキャリアのことばかり考えてきたけれど、この子を守り、この子と生きていく「家族」としての役割が今の私にはあるんだ、と。その時から、私の人生の優先順位は大きく変わりました。

──キャリア一筋だった頃とは、見える景色が全く違いますね。

昔、先輩ママに言われて心に残っていた言葉があるんです。「子どもが抱っこ紐に入る時期は、人生で本当にたったの2年くらいしかないよ」って。

当時はその意味がピンとこなかったのですが、息子が大きくなって、もうあの頃のように抱っこできなくなった今、その大切さが痛いほど分かります。

腕が腱鞘炎になるかと思うくらい大変だった授乳期間も、今思えばかけがえのない、本当に愛おしい時間でした。だから、今まさに子育てで大変な思いをしている人には伝えたいですね。

仕事のことも大事だけれど、今しかできない、子どもとの時間を大切にしてほしいって。

──今まさに廣瀬さんと同じように、キャリアと子育ての間で悩んでいる読者の方へメッセージをお願いします。

もし今、育児などで「ライフ」の割合が多い時期にいるなら、それは未来の自分を助けるための素晴らしい「仕込み」ができるチャンスだと、私は思っています。私自身、20代の頃に苦手意識を乗り越えて挑戦した簿記の資格が、後々のキャリアで大きなお守りになってくれました。

昔は「私には無理だ」と自分の可能性に蓋をしていた気がします。でも、ほんの少し勇気を出して一歩踏み出してみたら見える景色が全く違ったんです。

だから、もし同じように悩んでいる方がいたら、その「やってみたい」という気持ちを少しだけ信じてみてほしいなと思います。その小さな一歩が、未来の選択肢を豊かにしてくれるかもしれないので。

廣瀬麗子さん 会計事務所に勤務する傍ら、クラウドソーシングサービス『シュフティ』などを通じてライティングの副業も行う。就職氷河期、派遣社員、産休・育休によるキャリア中断、時短勤務を経てフルタイム勤務へ。プライベートでは一児の母。自身の経験をもとに、ライフステージの変化に合わせた柔軟な働き方を実践している。
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