
“完璧な1日”より“どんぶり勘定な1週間”──私らしい「じぶん配分」の見つけ方

ライフステージの変化のたびに、仕事や家庭との向き合い方に悩む、すべての女性へ──。
連載『はたらく私の「じぶん配分」』では、さまざまな葛藤や努力の先に、自分らしい心地よいバランスを見つけた女性たちのリアルなストーリーをお届けします。
「ちゃんとしなきゃ」
そう思えば思うほど、自分の時間がどんどん消えていく。仕事、家庭、そして自分らしさ。理想のバランスを追い求めて、今日も私たちは頑張りすぎていないでしょうか。
サイバーエージェント、メルカリでキャリアを積み、現在はスタートアップの部長、起業家、そして一児の母でもあるスワンさん。著書に『あなたの24時間はどこへ消えるのか』があります。彼女もかつて、仕事に燃え尽き、心と体が悲鳴をあげる「暗闇のトンネル」を経験した一人でした。
父との突然の別れを乗り越え、彼女がたどり着いたのは、完璧を目指さない「どんぶり勘定」な人生計画と、自分をごきげんにするための具体的でちょっと“悪い”処方箋。
「やりたいことを後回しにしている場合じゃない」。そう決めた彼女の「じぶん配分」とは。
目次
今の私は70~80点くらい。割と「どんぶり勘定」な、私の配分

──まずは、現在のスワンさんについて教えてください。
夫ともうすぐ3歳になる息子の3人家族です。株式会社操電というエネルギー系のスタートアップでデザイン戦略部の部長をしながら、個人ではYouTubeやnoteで発信活動を続けています。
キャリアも紆余曲折で、6年ほど会社員として働き、独立してフリーランスを経験した後に、また会社員に戻ったという、ちょっと変わった経歴かもしれません。
──現在の「仕事・家庭・自分らしさ」の配分は、ご自身で「心地よい」と感じられる状態ですか?
心地いいかと言われると、「ギリギリよくやっているな」という感覚に近いかもしれません。快適とまでは言えないけれど、何かを捨てていたり我慢していたりする感覚はまったくない。無理はたまにするけれど、それも含めて自分らしいな、なんて思っています。
100点満点で言えば、70〜80点くらいですかね。
自分のやりたいことや欲望を何も諦めていない状態。完璧ではないけれど、仕事も、子育ても、創作も、ぜんぶ盛り込んでいるのが、今の私です。
子供が生まれる前は、朝と夜が自分の時間、昼間が仕事、という感じだったのですが、今は保育園の準備やお迎え、食事、寝かしつけなどがあり、時間の使い方が大きく変わりました。
──そんな合間を縫って、創作活動もされているのはすごいですね。
通勤電車の中でスマホに打ち込むnoteの文章、ランチタイムに書き出すYouTubeの台本。誰かにとっては「そんな隙間時間まで使って、大変ね」と、思われるかもしれないのですが、私にとっては友達と飲みに行くのと同じくらい、心が満たされる癒やしでありご褒美の時間なんです。

──素敵ですね。そんなスワンさんの一日の動き方、リアルな「じぶん配分」を教えてください。
1日単位というよりは、1週間単位で配分を調整するようにしています。
例えば、子供のお迎えは私が月・水・金、夫が火・木と分担しているので、火曜と木曜の夜は私のフリータイムになります。そういう時に一人で外に行って、好きなことをしたりします。
平日に私がお迎えを多めに担当する分、月に1回は土曜の丸一日をPodcastの収録に充てさせてもらうなど、1週間を通して仕事、自分、家族の時間がそれぞれ「1:1:1」になるように調整しています。
とはいえ、配分は結構「どんぶり勘定」ですね。私は放っておくと自己肯定感がすぐにマイナスに行ってしまうタイプなので、「今日はこれができなかった」って毎日反省会をしてたら、身が持たないタイプでして(笑)。
だから、1週間の中で帳尻が合えばOK、というくらいがちょうどいいって思っています。
仕事で燃え尽きた日々に重なった、父との突然の別れ
──今は心地よい配分で生活できているとのことですが、そこに至るまでには、様々な苦悩や葛藤もあったのではないでしょうか。
そうですね。昔はもう、とにかく仕事しかしていなかったです。仕事を通して「自分は生きていていいんだ」という“存在証明”をしないとやっていけない、という恐怖心とずっと戦っていた気がします。
ありがたいことに、働けば働くほど評価していただけたので、それが嬉しくて。深夜まで働いてタクシーで帰るような毎日でも、もっと、もっと、と土日も仕事の本を読み漁り、ひたすらスキルアップに明け暮れていました。

──まさに、仕事に燃えていたんですね。ただ、働き詰めでメンタルを崩してしまったご経験もあると伺いました。
大きな不調の波は3回ありました。1回目は会社員時代に父の介護と死が重なった時、2回目は独立して本を出版した時、そして3回目は自分の事業が大変だったタイミングに、出産と夫の仕事も大変になったことが重なった時などです。
特に最初の、父との別れが重なった時期は、精神的にかなり追い詰められていました。当時はがむしゃらに働いていたのですが、会社員3年目に父がALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病を患ったんです。
──ご自身も大変な時に、お父様のことまで。
父は、その年に59歳の若さで亡くなりました。父を失った悲しみも癒えないうちに、子会社への出向と新規事業の立ち上げが重なって…。自分の心も体もボロボロな上に、環境の変化とプレッシャーがのしかかり、心身ともにバランスを崩してしまいました。
あの頃は本当に、真っ暗なトンネルの中にいるようでしたね。
父が教えてくれたこと。「“いつか”はない、だから今すぐやろう」
──どうやって、その長いトンネルを抜け出すことができたのでしょうか。
一番は、自分の感情をちゃんと認めてあげることだったと思います。辛い時は「辛い」って声に出す。そうやって、少しずつ自分を客観視できるようになりました。
──決して、簡単なことではなかったと思います。
そうですね。でも、心や体が悲鳴をあげてしまうような不調って、自分のせいじゃなくて、“脳のバグ”みたいなものなんだと思うんです。そう知っているだけで、心の持ちようは全然違います。
私たちはつい、「一度もつまずいてはいけない」という“社会の圧”みたいなものを感じて自分を責めてしまいがちですが、自分の悩みや痛みは自分だけのものです。だから他人と比較しなくていいんです。
誰かにとっては何でもないことが、自分にとってはそうではないことも少なくありません。何が辛いかなんて、人それぞれなんです。
先日、オフィスの机を組み立てていたら、必要なネジを2箇所締め忘れたまま同僚に引き継いでしまったことがありました。その日は他の仕事も立て込んでいて心に余裕がなかったせいか、「なんて自分はダメなんだろう」と、その小さなミスがすごく大きな失敗に感じられて。帰りのタクシーの中で、自分が情けなくて涙が止まらなくなりました。
冷静になればネジ4本の話なんですけどね。でも、その時の私にとっては、それくらい大きな出来事だったんです。

──その気持ち、とてもよく分かります。
少しずつ自分を客観視できるようになった頃、父が遺してくれたものと向き合えるようになりました。
ベッドに横たわっていた父を思い出しながら、「もし今、自分があの状態だったら、〇〇がしたかった」などと後悔するだろうなと。その時に強く思いました。「やりたいことを後回しにしている場合じゃない」って。
そこからですね、「完璧じゃなくていいから、やりたいことを前倒ししよう」って決めたのは。
エベレストに登りたいとか、独立したいとか、結婚も出産も、気になることは一旦全部やってみよう、と。後のことは未来の自分に任せればいいやって思ったんです。
自分をごきげんにするための、具体的でちょっと“悪い”処方箋
──その「やりたいことを前倒しする」という考え方は、今まさに奮闘されている子育てにも影響を与えていますか?
すごく与えていますね。
昔、ある先輩に「子育てって意外と短いよ」って言われたのが心に残っていて。だから、今は息子との時間を思いっきり楽しむようにしています。
あと、夫婦関係で気をつけているのは、「不平等を許容し合おうね」ということです。完全に平等を目指すと、お互いに辛くなるので、「ごめん、今日飲み会だからお願い!」って全力で迷惑をかけ合うようにしています。
私たちにとっては、その方が、夫婦としての幸福度が最大化される気がしているので。
──「迷惑をかけ合う」って、正直でいいですね。つい「私が我慢すれば……」と思ってしまいそうです。
確かに、言われて気がついたのですが、私はあまり我慢している感覚はないかもしれません。というのも、我慢した先に何もないと辛いので、すぐに「交換条件」を出すようにしているんです。「これを我慢するから、あれちょうだい」って。ご褒美があれば、我慢じゃなくてただの「切り替え」になるじゃないですか。
あとは、日常の中で積極的に「悪いこと」をする訓練もしています。

──悪いこと、ですか(笑)。
はい。例えばつい最近、保育園帰りに息子と二人で居酒屋に直行したんです。テーブル席に並んで座って、息子にはポテトをあげて、私はビールを飲みながら本を読む。自分の中で「私、今ちょっと悪いことしてるな」って思うのですが、そんなことをあえてするのが大事なんじゃないかなと。
そうやって「良い子」とか「あるべき姿」のイメージからはみ出していくと、「こういうことをしても人生は回っていくんだな」って、安心感と自信に繋がると思うんです。
理想のじぶん配分を見つけるために、「今やりたいこと」に目を向けてみて
──自分に正直に、少しだけ大胆になることが、自分らしい配分を見つける鍵なのかもしれないですね。
そう思います。だからもし、過去の私のように悩んでいる方がいたら、こう伝えたいです。
「全ての条件を取っ払って、今やりたいこと、全部教えて」って。
「自分勝手かな」とか「わがままかな」とか、そういう気持ちは一旦、忘れてほしい。「独立したい」みたいな大きなことじゃなくていいんです。「箱根に行きたい」とか、「3日連続でサウナに行きたい」とか、「壊れたカバンを直したい」とか。
まずは、自分の欲望を諦めずに、言葉にしてみること。それが、一番パワフルな最初の一歩になるはずです。
──さっきのスワンさんのお話でいうと、まずはちゃんと机のネジが締められるようになるとかでもいいですよね(笑)?
そうそう、それです(笑)!本当に、そんなことでいいんです。