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2017/07/20

うるるの一人情シス女子が“攻めの情シス”になれたワケ 彼女が実践してきた取り組みとは?

ユーザー対応やインフラのメンテナンスに追われ、深夜残業が当たり前――。一人情シスの悩みは尽きません。

一方で、ビジネス環境が目まぐるしく変化する現在、経営視点を持つ“攻めの情シス”が求められています。しかし、「忙しすぎて“攻めの情シス”どころじゃないよ!」と嘆く一人情シスの人は多いでしょう。

今回、そんな人が“攻めの情シス”になるためのヒントになる一人情シス女子を紹介しましょう。

登場するのは、うるるで事業推進部情報システム課に所属する上村早也華(かみむら・さやか)。上村は、“賢く守り、果敢に攻める”をモットーに、たった一人で情シスを会社の中心的存在に押し上げました。そんな彼女の取り組みをレポートします。(取材・文:山際貴子 撮影:松浪賢)

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うるる 事業推進部 情報システム課 上村早也華

情シスは“オフィスの中心”であれ!

うるるは「入札情報速報サービス」などのサイト運営やアウトソーシングサービス、クラウドソーシングサービス「シュフティ」などを手がける会社。東京・中央区の湾岸エリアにあるビルのワンフロアにオフィスを構えています。

社内の窓からは東京湾を臨む景色が広がり、休憩室ではテーブル代わりの卓球台に社員が集まって、楽しそうに話をしています。そんなオフィスに入ると、どこからか「こっちですよ~!」の声。見ると上村が自席から手を振っていました。

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上村の席はワンフロアオフィスの真中にあります。一般的に情シスは、壁際でキッティングをすることも多いので、うるるのように、オフィスの中央にあるのは珍しいかもしれません。

「“オフィスの中心で愛を叫ぶ!”がコンセプトなんです(笑)」。聞くと、ユーモアたっぷりに、こう答えてくれた上村。伺ってすぐに細かいネタを混ぜていくあたり、タダモノではないと感じます。

もちろん実際に叫ぶわけではありません。「オフィスの中心に情シスの席を配置することでフロアの隅々まで目が届くようになり、情報も集まりやすくなる」と上村は説明します。通路側に席を置くのも「この通路は全員が通るんです。だから声をかけてもらいやすい」(上村)という理由があります。

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実は上村、以前の仕事はスポーツインストラクターという異色の経歴の持ち主です。インストラクターをしながら独学でシステム開発を勉強。28歳でIT業界に飛び込みました。

そして、SAPのカスタマイズを行う企業で経験を積むうちに「システムの導入が決まってから携わるのではなく、システムで会社を変えていける仕事に就きたい」と思うようになったといいます。

そんな上村は、スカウトされたのをきっかけにうるるへ入社。しかし、上村の入社時、うるるには情報システム部門がありませんでした。

さらに、社内は権限が整備されておらず、使われていないPCがいたるところに放置されている状態だったのです。

転がっているPCをひとつひとつ片付けることから上村の“一人情シスライフ”は始まりました。「当時はまさに暗黒時代でした」と、上村は当時を振り返って笑います。

社員への“おもてなし”が情シスの仕事と心得よ

オフィスを見渡すと、ひとりひとりの席に大きなモニターとピカピカのPCが置いてあります。うるるでは、PCを短期間で入れ替えをするため、中古のPCを割り当てることも少なくありません。

その時、上村は中古PCのキッティングを新しいPCと同様に細かく設定するのはもちろん、外側を完璧に磨き上げて新品同様にしてから社員に配布しています。

「『宝石屋かよっ!』と言われるくらい磨きます(笑)。たとえ中古のPCでも中も外もキレイにして新品感覚で使ってもらうことが、社員に対する情シスからの最大の“おもてなし”と考えているんです」。

こう話す上村。キッティングの項目は画面の解像度にはじまり、ブラウザを起動した時の画面の大きさ、モニターの明るさ、音量など、実に細かく決められています。

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中古PCは新品同様にして社員に渡すのが、うるる情シスの“おもてなし”。磨き方にも「コツがある」(上村)といいます

「おもてなし」は、うるるの情シスの信条です。上村は、うるるの社是である「相手の期待を超えるおもてなし」に共感。情シスが、その考えを最も体現する部署にしたいと思いました。その1つが中古PCのブラッシュアップなのです。

それだけではありません。社員からの問い合わせがあった場合には「3分以内に返答する」というルールも作りました。これも「おもてなし」の一環といいます。

「『実は困っていたんです…』と社員から言われたら情シスは負け。言われる前に声をかけなければダメです」と上村は力説します。

この言葉を実現するために、上村は、入社直後に社内を回り、全ての社員と言葉を交わして情シスをもっと知ってもらうように努めました。併せてITのことで困っている社員がいないかを、その様子からチェックしていったといいます。

これは今でも続けています。この地道な取り組みが「ITで何か分からないことがあったら情シスに聞け!」と社内で言われるほど、全社から信頼される存在に情シスを押し上げたのです。

一般的には、一人情シスは社内からの問い合わせが多いと、忙しさもあって、どうしてもぞんざいな対応をしてしまいがちです。

上村はこのことについて「社員の様子から、なるべく事前に問題を察知して先手を打っておけば、余裕が生まれて対応も丁寧になります。そうすれば社内の情シスに対する満足度も上がります。そうすればこちらの意見も言えるようになって自分の仕事量もコントロールしやすくなるんです」と話します。

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社員と触れ合うことで、その様子からITで困っていることを察知して対応を準備する

情シスはリスクを盾に会社の成長を止めるべからず

実際に社員が業務をするためのシステムを見せてもらいました。うるるでは、クラウドID管理システム「OneLogin(ワン・ログイン)」を利用。ログインをすると、会社で使うソフトウエアやサービスなどの一覧が表示されます。

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うるるで利用している「OneLogin(ワン・ログイン)」の画面

上村の入社時にはオンプレミスで稼動しているシステムも多くあったそうです。しかし、「こんな海のそばにサーバーを置いちゃダメっ!」という上村の号令で次々とクラウドへ移行。現在は、ほとんどのシステムをクラウド上で管理しています。また、OneLoginによって、シングルサインオン(SSO)でのログインをできるようにしました。これには理由があります。

「セキュリティ対策でシステムごとに違うID・パスワードを使用したり、定期的にパスワードを変えたりするのは使う側にとって手間がかかりますよね。OneLoginで、その手間を撤廃したんです」と、上村は説明します。

セキュリティでは、「使う人に意識をさせないことが大切」と上村は言います。それと同時に安全性の確保にも知恵を絞っています。

「セキュリティのインシデントで多いのはID、パスワードの内部不正による流出です。そこで、管理者権限でOneLoginのアカウントをブラウザに設定しています。こうすると、使う人はIDやパスワードを意識せずにシステムを利用できる。流出も防げます」(上村)。

使う人が知っているからこそ、ID、パスワードの流出リスクがありますが、知らなければ危険性はありません。うるるは、グーグルの法人向けクラウド型アプリケーション「G Suite」もいち早く導入していますが、ログをトレースできるようにして、問題が発生したら追跡できるようにしています。

また、システム導入では意思決定が早く、新しいシステムを導入する場合には、上村が上司とディスカッションをして提案が通れば即採用と、圧倒的なスピード感で行っています。

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新システム導入をはじめ、業務についても上司と日々コミュニケーションを取っている

「システムの導入では、ほかの事業部がやりたいことをリスクだけ見て反対してしまうと、会社の成長が止まってしまう。情シスとしてはビジネスに与えるインパクトを重視しているんです」と、上村は説明します。まず、ビジネスに必要なシステムを導入し、セキュリティリスクは後から担保するというのが上村の考えです。

「横のつながり」「やらない勇気」「自動化」が一人情シス成功のポイント

一般的には、ユーザー対応、トラブル対応などに追われ、深刻な重労働を強いられている一人情シス。上村は一人情シスが疲弊をせず“攻めの情シス”になるためには3つのことが大切だといいます。

まずは「情シス同士のつながり」です。「私は一人情シスこそ外に出るべきだと思っています。勉強会に積極的に参加して横のつながりを作っておけば、ほかの会社がどのように運営しているかを知ることができます。それが自分の仕事にも生きてきます」(上村)。

実際、上村も交流で培った人脈が日々の仕事に役に立っているといいます。しかし、「仕事に忙殺されて外に出て行く暇がない!」という一人情シスの人も少なくないでしょう。そこで上村が提案するのが2つめの「やらない勇気」です。

「例えば、明日の朝9時までの作業依頼が来たとします。普通は9時までに全てを完了しようとしますよね。でも依頼した人に確認したら、実は12時までで大丈夫だったり、一部の作業だけで、よかったりするかもしれない。それが分かれば依頼された期限に全ての作業をする必要がなくなり時間を作ることができます。こうやって、やらないことを定義するのは大切だと思います。“やらない勇気”も必要なんですよ」(同)。

3つめは「定型業務を自動化」です。「私は同じ仕事を2回も3回も続けたくないんです。それは時間のムダ。だから決まった業務は自動化しています。一人情シスの人は絶対にするべき」(同)。これも仕事を減らし時間を捻出する工夫です。さらに、上村は自動化のノウハウを社内で積極的に共有しています。

よりよいITの使い方を提案し広めていきたい

業務の効率化を目指し“攻めの情シス”として働く上村。今の課題は導入したサービスで社員の使い方に違いがあることと、活用が思うように進んでいないことです。

「いろいろな人の作業をのぞくと、『えっ、このサービス、こんな使い方ができるの?!』という画期的な使い方をしている人がいる一方で、すごく原始的な使い方をしている人もいて『もっと楽なやり方があるのに…』と思うこともあります」と、上村は話します。

解決策として「格差をなくすためにも、周りの人の使い方をよく観察して、便利な使い方をみんなに提案していこうと思っている」(同)といいます。今後は作業の自動化をさらに推進するべく、AI(人工知能)の活用も模索中です。

仕事に追われる情シスではなく、会社を成長させる情シスでありたい。上村の挑戦はまだ始まったばかりです。

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Text by ジョーシス(取材・文:山際貴子 撮影:松浪賢)

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